塩焼き、おにぎり、お茶漬け、お寿司、ムニエル、ちゃんちゃん焼き・・・。みなさんは、サケ・マスと聞くと、何を思い浮かべますか?
古今東西老若男女、日本人に愛されてきたサケ・マス類の仲間たち。今日は、食や日本だけにとどまらない魅力をお伝えしたいと思いマス!
かの有名な作曲家シューベルトの「鱒」という曲を、みなさんは、ご存じでしょうか?
タイトルこそ知らなくとも、子供の頃に合唱や音楽の授業で習ったり、電話の保留音になっていたりと、身近に溢れているので、聴くと「あぁ、あの曲か!」となると思います(ならなかったらすみません)。
オーストリアのウィーンに生まれたシューベルトは、31才という若さでこの世を去ります。その短い人生で残した楽曲は1000曲以上とも言われます。天才ゆえ、たくさんのエピソードが残されているシューベルトですが、個人的には、「自分で作った曲が難しすぎて人前で発表する際にうまく弾けなくて、ブチ切れて楽譜を破いた」というエピソードが一番面白くて好きです。
さて、今回テーマとして扱う「鱒」という曲は、シューベルトが20才頃に作曲した曲です。
メロディーは耳にしたことがあっても、歌詞の内容まで把握している方は多くないかと思います。今回は、その意訳を紹介したいと思いマス。
●シューベルト「鱒」の歌詞の訳
“明るく澄んだ川で
元気よく身を翻しながら
気まぐれな鱒が
矢のように泳いでいた。
私は岸辺に立って
澄みきった川の中で
鱒たちが活発に泳ぐのを
よい気分で見ていた。
釣竿を手にした一人の釣り人が
岸辺に立って
魚の動き回る様子を
冷たく見ていた。
私は思った
川の水が澄みきっている限り、
釣り人の釣り針に
鱒がかかることはないだろう。
ところがその釣り人はとうとう
しびれを切らして卑怯にも
川をかきまわして濁らせた
私が考える暇もなく、
竿が引き込まれ
その先には鱒が暴れていた
そして私は腹を立てながら
罠に落ちた鱒を見つめていた”
参考:Wikipedia
…歌詞を紐解くと、軽快なピアノと、美しい歌声によるさわやかな冒頭からはとても想像しがたい内容でした。
なんと最後に鱒は釣り人に釣られてしまうというちょっとやるせない展開で終わりを迎えます。
つい先ほどまでのびのび泳いでいたのに釣られてしまった鱒も気の毒ですし、何もできず傍観するのみだった「私」の不甲斐なさや情けなさを感じてしまい、何だか胸が”きゅっ”となり、いたたまれない気持ちになるのは私だけでしょうか。
そして実際歌われているのはここまでなのですが、さらに原詩には続きがあるのです。
●「鱒」の歌詞の続き(原詩)
“いつまでも続く
青春の黄金の泉のもとにいるあなたがた
鱒のことを考えなさい
危険に出会ったら落ち着いてはいられない。
あなた方にはたいてい用心深さが欠けている
娘たちよ、見なさい。
釣り針を持って誘惑する男達を!
さもないと後悔するぞ!”]
…なんと、その内容は、鱒を比喩にした「チャラ男(釣り人)に気を付けろ」というギャル(鱒)に対する警告の歌だったんですね。
古今東西、男女のトラブルや悩みの内容は変わらないのかもしれません。先人の訓戒をしっかり胸に刻み、人を見る目を養い、ぜひ後世に残し受けついでゆきたいものです。
またシューベルトは「鱒」のメロディーをモチーフにピアノ5重奏バージョンも残しています。こちらは全5楽章、40分近くある楽曲です。大自然の清流を彷彿とさせるような、ピアノと弦楽器のハーモニーが美しく、こちらもとても好きです。お時間のある時にでも、歌バージョンとの違いをぜひ楽しんでみてください!
筆者プロフィール:
水産系シンガーソングライター 牧野くみ
魚食×アートの可能性を探る。日本さかな検定(ととけん)1級所持。
2019年、鮭をテーマに3曲収録した「あの川を目指して」自主制作リリース。
https://magazine.tunecore.co.jp/newrelease/41784/