一度漁に出れば15時間は海の上。重労働かつ休みは天候次第。そんな漁業のあり方を変えた「完全受注漁」。事前に注文を受けた分だけ魚を獲り、獲りすぎた分は海へと返す。
結婚を機に、完全未経験から漁師の世界へ飛び込んだ富永邦彦さんがたどり着いたのは「完全受注漁」という働き方でした。海とともに生きる漁師の営みを守り、次世代へ繋げようとする富永さんに話を伺いました。
「魚との関わり」を教えてください
オンラインストアやSNSを通じて事前に顧客から注文が入った分だけの魚を獲る「完全受注漁」を行っています。
6次化の流れもあり、漁師が消費者の方に直接魚を売れるようになったけど、品質担保やコストパフォーマンスではどうしても大規模漁業には勝てない。そんな中で小規模漁業だからこそできることがあるということを知ってもらいたく発信をしています。
「魚との関わり」のきっかけは?
結婚を機に、妻のお父さんが漁師だと知り漁師の世界に興味を持ったのがきっかけです。それまでは大阪で働いていたので、漁師と出会うことなんてありませんでしたよ。マグロの一本釣りをテレビで見てかっこいいと思っていたくらい。笑
漁師という仕事の選択肢があるんだ、とノリと勢いで飛び込みました。師匠であるお義父さんが腕の良い漁師だったので収入はあったんですが、継続していくにあたって労働環境が厳しかったですね。24時間漁に行くこともあるし、天気が悪くて漁に出れない日も網の手入れなどで全然休みじゃない。
そんな中、ドラマ「ファーストペンギン!」のモデルになった坪内さんという方を知り、「魚って自分たちで売って良いんだ」と衝撃を受けたのが、今の完全受注漁に繋がる第一歩でした。そこからは産地直送の居酒屋に営業したり、SNSでの発信をして直販という形でやっていたんですが、コロナ禍になって個人からの注文が増えてきたんです。
市場に出しても安くしか売れなかったのが、気づいたら同じ売上でも以前のようにたくさん魚を獲っていないことに気づきました。しかも勤務時間も減った。何より、一般のお客様と繋がったことで「ご馳走様、おいしかったよ」や「ありがとう」の声をダイレクトにもらえるようになり、仕事をしている意義を感じました。
「魚との関わり」で大事にしていることは?
お義父さんや地域の漁師たちに教えてもらってきたから、今の自分があると思っています。
完全受注漁をするには効率よく魚をとる技術がいります。その技術を教えてくれたのはお義父さんたちです。
先人の想いを受け継ぎながら、自分たちなりのやり方で海や漁師の暮らしを守っていきたいと思っています。
「魚との関わり」で今後やってみたいことは?
魚を選別するとどうしても獲りすぎることになってしまいます。僕なりに選別せずに売る方法はないのか、と模索しています。
個人で始まった受注漁ですが、これを「まち単位」でできないか考えています。漁師は今まで通り魚を獲って、発送や管理はまちが行う。そうすればインターネットが苦手な世代の漁師も受注漁に参画することができる。この仕組みづくりのために国に助成金申請して、採択されました。実現に向けて進んでいます。
10年後の自分の働き方から始まり、今では食料自給率や漁師の後継者不足など視野が広がっています。魚を食べてきた日本人にとって、魚を守ることは日本の平和を守ることだと本気で思っています。
「まち単位」の受注漁でモデルケースが作れたら、次は市場単位、なんならチームジャパンで。
魚を中心に新しい漁業を広めていきたい。
邦美丸(くにみまる)
富永 邦彦
未来に水産資源を残し、漁業者の働き方改革と所得向上の為に「完全受注漁」を実施している。岡山県玉野市胸上の漁師。
事業内容:受注漁・オンラインストアでの加工品販売
漁師さん直送市場 https://umai.fish/fisherman/kunimimaru
公式インスタグラム https://www.instagram.com/kunimimaru/
ポケットマルシェ https://poke-m.com/producers/189458