17.5.31 【コラム】生魚は今がお買い得! 〜アニサキス報道の実際について解説〜

ご存知のように、5月半ばから魚に寄生する「アニサキス」という寄生虫の被害が近年急増しているとの一斉報道がありました。

要点を整理すると、、、
<アニサキス報道の要点>
①アニサキスの被害がここ10年間で急増している
②アニサキスに感染すると、胃などに激痛が走り、有効な治療方法がない
③アニサキスは、生の魚に寄生していて、加熱や冷凍をすると死滅する
といった内容になります。

「アニサキスに気をつけましょう」というのはその通りです。ただ、この一斉報道が影響して生の魚がバッタリと売れなくなっており、結果魚の値段が下がり、罪のない漁師さんや魚屋さんが非常に困っています。

この「アニサキスの被害が増えている」ということについて、本当はどうなのか、結論を先に言ってしまうと、

これまでとまったく状況が変わらない
というのが真実です。

悲しい面もありますが、結果、消費者にとっては、
これまでと同じ魚が安く買えてお買い得になっている
というのが、今の状況です。

これらのことについての解説が見当たらなかったので、自分の方でどういうことなのか、先ほど書いた3つの要点に対して、1つ1つ解説していきますね。


①アニサキスの被害がここ10年間で急増している
→結論:届け出件数が増えているだけで、被害が拡大しているとは言いがたい

これについては、報道等でも後の方をよく見ると書いてありますが、アニサキスによる食中毒被害の届け出が法令で義務化されたのは2013年からです。そして、アニサキスの食中毒件数のグラフを見てみると大きく増加し始めているのは、2012年からとなっています。届け出義務化の通達は前年中にされますから、その通達を見て(これまで届け出ていなかった関係機関が)届け出た結果の件数増加だということは明らかです。

ただ、これらのことは、記事の後の方に書いてあり、見出しは「アニサキス被害、ここ10年で20倍」のように書かれています。そのせいで、私たちは「アニサキスの被害が拡大している」と錯覚してしまっているのです。

また、件数の増加について「魚を生で食べる機会が増えたことが要因だ」といった記事も見受けられます。しかし、これについては、それを示す統計は取りようがありません。また、この元となるコメントは食品衛生の専門家のものであり、水産物流通の専門家のものではありません。
生まれてから30年以上水産物流通の事を考えてきた私の感覚では、ここ10年程度の話では、生食で食べる機会が急激に増えたとは言い難いです。
考えてみてください、「昔は焼きサバしか食べていなかったけど、最近は焼きサバは食べず、生サバや〆サバばかりだな。」という人がいるでしょうか。私は、以前、〆サバを主力商品として卸していましたし今でも情報にアンテナを張っていますが、ここ10年で〆サバの消費が急に増えたという情報は聞いたことがありません。

②アニサキスに感染すると、胃などに激痛が走り、有効な治療方法がない
→結論:激痛は命に別状がない。治療法はある。

まず、感染すると胃などに激痛が走るというのは本当です。ただ、通常はここまでしか報じないので、すごく不安になるのですが、最悪当たったとしてもアニサキスによって命を落とすようなことはありません。また、何もせずにいた場合でも長くとも2,3日すれば激痛は収まります。
それから、治療法はあります。まず、確実なのが、内視鏡でアニサキスを除去すること。そして、もっと気軽なのは、正露丸(有効成分:木クレオソート)です。この正露丸に含まれる木クレオソート、あるいはクレオソートという物質については、アニサキスの活動を抑制する効果が報告されています。(ちなみに、さかなの会の石田副代表は自らの経験で正露丸が効くということを発見していました)
詳しくは、下のリンクの他、「アニサキス 正露丸」などで検索してみてください。
↓大幸薬品のニュースリリース
http://www.seirogan.co.jp/news/dl_news/file0127.pdf

③アニサキスは、生の魚に寄生していて、加熱や冷凍をすると死滅する
→結論:ここまでは正しいが、この先の話に誤りが多々

アニサキスには、加熱or凍結が効く(温度&時間等の条件あり)というのはその通りで、業界人の間でも一般的に知られているところです。また、酢でシメただけでは効果が期待できません。
主に生の魚の内蔵に寄生していて、死後、時間が経過するなどすると肉の部分にも移動するというのもその通りですが、寄生の度合いや確率は魚種や海域によってもまちまちです。つまり、”生魚イコール即アニサキス”ではないのです。

ここまでは良いのですが、この先に続く情報には「?」と思うことが多いです。
例えば、
×刺身をよく噛むとよい
→アニサキスは、直径1mm程と細いので歯の隙間から抜けてしまい噛み切れるか疑問です。アニサキスは目視で見えるので、よく噛むよりも、よく見る事の方が大事です。

×生の魚を使う高級寿司よりも冷凍の魚を使う回転寿司の方がよい
→回転寿司はその通りですが、高級寿司のリスクが高いかというとそうは思えません。なぜならば、1つ1つの素材をよく見ているので発見されやすく、鮮度の良い魚を使うのでそもそも肉の部分にアニサキスが移動しているリスクが低いといえるからです。

×生で流通している市販の〆サバはリスクが高い
→〆サバは流通の際、凍結されていることが一般的で、生では流通していないです。よって、アニサキスも死滅するため安全です。(私、〆サバ卸してましたので)

そして、基本的なことをいうと、流通業者や飲食店は「今回のサバは生食で出すのはやめよう。このサバは〆サバで出せるな。マグロは刺身で大丈夫だ」といったことを長年で培われたデータを元に判断しています。その結果あっての現在の魚の食文化ですし、今の食品流通はそれなりに理にかなっていて、通常の鮮魚流通に沿ったものであればリスクは非常に低い状態にあります。
特に気をつけるとしたら、通常の流通から外れた形で魚を入手した場合です。例えば、自分で釣った魚や誰かからもらった魚を食べる場合などです。このような場合には、「内蔵を早めに除去する」「加熱、冷凍する」「生食の場合は、身をよく見てからにする」など、いつもよりも気を使うとアニサキスによる食中毒のリスクを減らせるでしょう。


以上、アニサキス報道に関する解説でしたが、結論をまとめると以下の3点です。

<結論まとめ>
①アニサキスによる被害は拡大しているとは言い難いし、リスクも増えているとは言えない。また、万が一感染した場合でも対処法はある
②念のため、暑くなる季節は特に、目視や加熱凍結等でアニサキス対策をするとより安全。さらに、一般的な流通から外れた形で魚を入手した場合は特に気をつける
③上記のように、リスクが増えている訳ではないにも関わらず魚の値段が下がっているので、消費者にとっては今が魚の買い時

で、私が一番言いたかったのは、今が魚の買い時ということです。安全性は何も変わりませんし、ただただ安くなっています。そして、罪もないのに困っている漁師さんや魚屋さんを助けることにもなり、食の流通の維持に一役買えます。

はっきり言って、アニサキスは怖くないです。本当に怖いのは、こういった一斉報道がされて、みんなが一斉に誤解をしてしまうことです。
これについては、また、別途書こうと思いますが、食に関するニュースは特に冷静に受け取るようにした方がよい状況にあります。

魚に限った話ではありませんが、食に関するモノと情報の流通をどう最適化するか、みんなで考えていくことが大事だと思います。